難聴児の母のブログ

中度の難聴児の誕生から今まで。

「難聴」の一歩先へ

さて、その後大学病院には3~4度行きましたが、大きな病院だったので患者の数が多く、先生と話す時間があまりなく、遠かった(電車で1時間10分くらい)のもあって近くの病院を紹介してもらうことになりました。その頃には息子の聴力も安定し(月齢の低い赤ちゃんの場合、検査をしても実際より悪い結果が出ることが多いそうです)、大体60~70dB(デシベル)の間だということが分かっていました。この60~70という数値がどのくらいかと言うと、0dBがひそひそ声で、80dBが普通の会話くらいです。ということは、普通の会話は聞こえるけど、例えば大勢が喋っている場所や、息子がリビングにいる時、私がキッチンで料理をしながら話す言葉などは聞きにくい、という感じでしょうか。息子の聴力に関してはまだ推測の域を出ないので何とも言えませんが。

 

そして、紹介してもらった病院で、私たちにとってはかなり衝撃的なことを新しい先生から言われます。

 

「子供の難聴の場合、成長に伴って良くなることはほとんどありません。良くて変わらないか、悪くなることもよくあります」

 

先生は、私たちの甘い考えを見抜いていたのでしょう。

 

「僕の経験から言って、息子さんは『感音性難聴』の可能性が高いと思います。伝音性の場合は補聴器で100%何とかなりますが、感音性の場合は補聴器を着けても聞こえにくいことがあるでしょう」

 

知らない人には全く何のことだかわからない言葉が出てきましたね。難聴には大まかに分けて二種類あって、「伝音性」と「感音性」に分けられます。読んで時のごとく、「音を伝える」と「音を感じる」のが難しい、ということです。伝音性は耳の奇形を伴うことが多く、耳の穴が塞がっていたりするそうです。そして外科手術で劇的に良くなることもあるそうです。

 

対して息子の感音性難聴は、音を脳に伝える器官や神経の問題で、良くなることはほとんどなく、先生の言う通り悪くなることもあり得る難聴です。

 

違いはまだあって、伝音性は音の感じ方は正常なので、音量は小さく聞こえるけれども、補聴器で大きくしてあげれば全く問題なく聞き取れる。一方感音性は、音を拾うことも難しければ、音の種類によって聞こえる聞こえないが違うという厄介なものです。例えばローマ字で表すと分かりやすいですが、「hikouki(ひこうき)」という言葉が「hikouki(いおうい)」と聞こえてしまう。多くの場合子音が聞き取りにくいらしいです。(もし興味があれば「スピーチバナナ」で検索してください。)私が聞いた話で、感音性難聴の男の子が飛行機を指差して「おおきい!」と言ったけれど、それが本当に「大きい」なのか、「飛行機」の聞き間違いなのかわからない、ということがあったそうです。

 

ということは、息子は身の回りの言葉を正確に聞き取れない可能性がある。小児難聴の場合、言葉の習得という難題が待ち構えているので、うかうかしてはいられません。

 

ここでちょっと、日本語教師をしていた私の話をさせてください。

 

私は長男の妊娠9か月くらいまで日本語教師として4年ほど働いていましたが、その中で感じたのが「耳がいい人は発音もいいし会話力もある」ということです。耳がいいというのは聴力のことではなく、聞いた音を脳に伝えて、そのまま口に出す能力が高いということです。人間は聞いたことがない発音、聞こえても再現できない言葉は口に出すことができないんです。ラテン語を話す人がいなくなってしまったので、現代人はラテン語の正式な発音がわかりません。それと同じです。私が教えた学生の中で、漢字テストも読解問題もからっきしだめだけど、授業中軽口ばかり叩いている、という学生が何人かいました。彼らも「耳がいい人」だったんですね。

 

ということを難聴児の言語習得に結びつけると、聴力検査をして、先生から説明を受けて、補聴器も作って、さあ聞こえるようになっただろう、どんどん聞いていつか話せるようになるといいね!と手を離してしまってはだめだということですね。餅は餅屋、私なんかはたった1年ほど前に「難聴」の世界に入ったばかりのペーペーなので、ちゃんとしたプロに任せるのが筋、ですね。

 

新しい病院でもABRを受けました。3度目にして完璧な検査体勢でした。息子は10か月くらいで、離乳食も始まっていましたし、薬も難なく飲んでくれました(もっとくれ!と騒いだ程でした)。その結果、息子の聴力は中等度難聴ということでした。

 

ここで、耳鼻科の先生の診察は終わります。検査の結果が出たからです。先生は厳しい現実を私たちに伝えた後、こうも言いました。

 

「今のこの状況(難聴の診断で病院にいること)を不幸ではなく幸運だと思いましょう。息子さんは新生児の聴力検査で難聴が発覚しました。でも、聴力検査をしない新生児もたくさんいるんです。難聴を抱えているのに誰も知らないまま成長した子供は、だいたい3歳くらいになって、お母さんが「先生、この子は言葉が遅いんですが」と言って病院にやってくるんです。それじゃ遅すぎるんです。子供の難聴は対応が早ければ早いほどいいんです。ご自身の選択が正しかったんだと思うようにしてください」

 

あの時、産院であの紙にチェックを書かなければ。「とりあえず受けておくか」と思わなければ。全く何も知らなかった自分が恐ろしくなりました。以降、私は知り合いの妊婦全員に「生まれたら聴力検査を受けるように!」と言って回っています。皆さんも、是非。

 

「難聴」ということがはっきりわかったので、ここから先は「言語聴覚士」の先生の出番です。さらに、ろう学校の話も出てきますよ~